戦術教科書 / 第3章
第3章 オフェンス戦術の考え方
スペーシング、ボールと人の動き、スクリーンとピック&ロール、そしてトライアングルから5アウトまでの戦術の系譜を学ぶ。
3-1 スペーシング ― 攻撃は配置から始まる
スペーシングとは、攻撃の5人が互いに適切な距離を取り、守備を広げる配置のことだ。目安は選手間4〜5m程度で、3ポイントラインの外に立つ選手が多いほど守備は広い範囲を守らねばならず、ドライブやゴール下にスペースが生まれる。逆に選手同士が近すぎると、一人の守備者が二人を同時に見られてしまい、攻撃の選択肢が一気に狭くなる。
基本の考え方は「ヘルプに来た守備者が誰かを放す」状況をつくることである。ドライブにヘルプが寄れば、その守備者が担当していた選手が空き、そこへパスを出せばよい。そのためにコーナー、ウイング、トップといった定位置を埋め、ボールの移動に合わせて立ち位置を調整し続けることが求められる。良い配置は、ボールを持たない4人がつくるものである。
- 選手同士の距離はおおむね4〜5m
- 外に立つ人数が多いほど中が空く
- ヘルプが寄った守備者のマークが空く
- 良い配置はボールを持たない4人がつくる
3-2 ボールの動きとカット
ボールは人より速く動く。パスを素早くつなぐと、守備は位置の修正が追いつかずにずれが生まれる。「ドライブ・アンド・キック」(切り込んで守備を引きつけ、外へパスを出す)や、パスを受けたら長く持たずにすぐ次の判断をする「0.5秒ルール」は、このずれを広げるための原則である。ボールが止まると守備は休み、立て直す時間を得てしまう。
ボールを持たない選手の動き(オフボール)も同じくらい重要だ。守備者が前に出てきたら背後へ走るバックドアカット、パスを出した後にゴールへ走るギブ・アンド・ゴー、守備者の視野から外れてゴール方向へ向かうベースラインカットなどがある。止まっている選手は守りやすく、動き続ける選手は守りにくい。カットした後は空いた場所を味方が埋めることも忘れてはならない。
- ボールは人よりも速く動く、パスでずらす
- ドライブ・アンド・キックで守備をずらす
- 前に出てきたらバックドアカット
- パスを出したらすぐゴールへ走る
カット・移動パスドリブルスクリーン1〜5オフェンスXディフェンス
3-3 スクリーンの種類
スクリーンは、味方が守備者の進路に壁となって立ち、仲間を自由にする技術である。ボールを持つ選手のためのオンボールスクリーン(ボールスクリーン)と、持たない選手のためのオフボールスクリーンに分けられる。スクリーナーは接触の時点で静止していなければならず、動きながら当たったり足を広げたりするとイリーガルスクリーンとしてオフェンスファウルになる。
オフボールスクリーンには、ゴール側から外へ向けて掛けるダウンスクリーン、外からゴール方向へ向けて掛けるバックスクリーン、ペイントを横切るクロススクリーン、二枚続けて掛けるスタッガードスクリーンなどがある。シューターを外へ逃がすフレアスクリーンのように、同じ技術でも向きと使い方次第で狙いが大きく変わる。使う側は守備者の位置を見て、カールやフェードを選ぶ。
- スクリーナーは接触時に静止が原則
- ダウン・バック・クロスの3方向
- スタッガードは2枚連続のスクリーン
- フレアスクリーンでシューターを解放
3-4 ピック&ロール
ピック&ロール(PnR)は、ボールハンドラーにスクリーンを掛け、スクリーナーがその後ゴールへ転がる(ロール)攻撃で、現代バスケットで最も多く使われる戦術である。ハンドラーはドライブ、プルアップシュート、ロールマンへのパス、外へのキックアウトから選択し、守備の対応を見て最も有利な選択肢を突く。二人の連携で守備四人を動かす点に強みがある。
派生形として、スクリーナーが外に開いてシュートを狙うピック&ポップ、スクリーンを掛けるふりをしてすぐゴールへ走り込むスリップ、ハンドラーがスクリーンとは逆方向へ切り返すリジェクトなどがある。守備側の対応(第4章)とセットで理解すると、PnRは「守備に先に選ばせて、その逆を突く」読み合いであることがわかる。逆サイドの3人の配置も成否を左右する。
- ハンドラーの4択: ドライブ・シュート・ロール・キック
- 外に開いてシュートするピック&ポップ
- スリップとリジェクトで守備の逆を突く
- 守備に選ばせてから逆を突く読み合い
3-5 システムの系譜 ― トライアングルからプリンストンへ
トライアングル・オフェンスはテックス・ウィンターが体系化し、フィル・ジャクソン率いるシカゴ・ブルズとロサンゼルス・レイカーズが計11度の優勝で有名にした。サイドに三角形、逆サイドに二人を置き、守備の動きに応じて決められた読み(リード)で攻める。マイケル・ジョーダンやコービー・ブライアントのようなスターに頼りつつも、全員がパスとカットに関わる仕組みである。
プリンストン・オフェンスはプリンストン大学のピート・キャリルが築いた。ハイポストを中心に絶え間ないカット、特にバックドアと、ハンドオフで攻めるスタイルで、体格で劣るチームが強豪を倒す手段として知られた。2000年代初頭のサクラメント・キングスがNBAでの成功例を示し、そのハンドオフやハイポスト経由の発想は、現代の多くのチームの攻撃に受け継がれている。
- トライアングル: サイドの三角形と読み
- ブルズとレイカーズで計11度の優勝
- プリンストン: ハイポストとバックドア
3-6 モーションから5アウトへ
モーション・オフェンスは、決まった型ではなく「パスしたらスクリーン」「空いた場所を埋める」といった原則に従って自由に動く攻撃である。ボブ・ナイトらの大学バスケットで広まり、選手の判断力を育てる手段として育成年代でも重視される。相手にとっては型が読めず、スカウティングしにくいという利点もある。一方で選手の理解度が低いと単調になりやすい。
近年の主流は全員が3ポイントラインの外に立つ5アウトである。センターも外に出ることでゴール下を空け、ドライブとカットのスペースを最大化する。2014年のスパーズの流れるようなパス回し、ウォリアーズのモーションと3ポイント、2024年に優勝したセルティックスの5アウトは、この流れを象徴する。ゴール下に一人を残す4アウト1インも広く使われている。
- モーション: 型より原則で動く
- 5アウト: 全員が3ポイントラインの外に立つ
- 4アウト1イン: ゴール下に一人を残す
実例で学ぶ
参考にした情報
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